東京高等裁判所 昭和30年(ネ)2349号・昭31年(ネ)685号 判決
控訴人武田長明は、仮に右賃貸借契約解除の効力が生じたとしても、控訴人武田松夫は昭和二九年二月初旬に被控訴人の代理人大越節子に金二万六、〇〇〇円の賃料を支払つたのであるから、右解除の意思表示は撤回されたものと認むべきであると主張するから考えるに、解除の意思表示はこれを撤囘することができないばかりでなく、原審証人大越節子の証言及び同証言により成立を認めることのできる乙第一号証によれば、同証人が控訴人武田松夫から昭和二九年一月分までの賃料を受取つたことが認められるけれども、同証人の証言によれば、右証人大越節子は単に被控訴人の経営する会社に勤務しているに過ぎない者であるところ、控訴人武田松夫が右大越節子の住所に右家賃を持参したので、大越は一時これを預かり、直ちに被控訴人に電話で右の趣を告げたところ、返せということであつたので右金員を控訴人武田松夫に返戻したことが認められるので、右大越が控訴人武田松夫から家賃を受領した事実をもつて、被控訴人が前記解除の意思表示を撤回したものとなすことはできない。
被控訴人と控訴人武田松夫との間の本件家屋賃貸借契約が昭和二八年九月二日限り解除によつて終了したのであるから、賃借人であつた右控訴人は賃貸人たる被控訴人に対し、賃貸借の目的物たる本件家屋を返還すべき義務を負うと共に、賃貸借終了の時以後明渡済まで、債務不履行により、賃料相当の損害金を支払うべき義務あるものといわなければならない。(被控訴人が本件家屋の所有権を他に移転しても、控訴人武田松夫の右義務には影響がない)
(角村 菊池 吉田豊)
(註) 被控訴人は本訴係属中賃貸家屋を参加人に譲渡した。